離婚弁護士解説 財産分与の進め方(概説)
当事務所は、離婚問題を重点的取扱分野の一つとしております。
今回は、令和6年4月26日に公開された東京家庭裁判所家事第6部「「東京家裁人訴部における離婚訴訟の審理モデル」について」を題材に、財産分与の制度を整理します。
数回に分けて連載ができればと存じます。
財産分与とは
離婚によって夫婦関係は解消し、夫婦としての権利義務関係は終了します。そして、離婚の際の財産的効果として、婚姻中に「夫婦の協力により得た財産」(民法768条3項)の清算を求める権利が与えられます。これが財産分与請求権です(同条1項)。
財産分与の求め方
財産分与は離婚協議の際に話し合うこととされていますが、夫婦間で協議が調わないときは家庭裁判所に財産分与調停・審判を申し立てることができます。
家事調停申立書の書式や提出先等は宮崎家庭裁判所のホームページをご参照ください。
ただし、離婚後2年を経過すると、財産分与を請求することができなくなりますのでご注意ください(民法768条2項。一般的には除斥期間と解されています。)。
話し合いで取決めをした場合は、後発的紛争を防止するために離婚協議書を作成することをお勧めします。離婚協議書は自作したものでも有効です。重要な取り決めですので、ご不安であれば弁護士に作成を依頼できます。さらに、公正証書で離婚協議書を作成すると、適法性の担保が事実上推定されますのでお勧めです。
財産分与の検討方法①(分与対象財産の確定)
財産分与は、夫婦共同生活中に形成した夫婦共有財産の清算(清算的要素)、離婚後の生活についての扶養(扶養的要素)、離婚原因を作った有責配偶者に対する慰謝料(慰謝料的要素)の3要素から構成されており、このうち清算的要素が財産分与の中心となります。
この清算的財産分与については、実務上、夫婦の形式的な名義に基づき、基準時に存在する各人それぞれの全ての分与対象財産を記載した財産一覧表を作成して算定し、それを比較して、各人が寄与度に応じた財産を取得できるように財産分与額を決めるという方法が採られています。財産一覧表の書式及び注意事項は、東京家庭裁判所のホームページにも掲載されていますのでご参照ください。
財産分与の検討に当たっては、まず基準時(分与対象財産の範囲を確定する基準時)を確定する必要があります。実務上、財産分与の基準時は、夫婦共有財産の形成・維持に向けた経済的協力関係終了時とするのが相当であることから、原則として別居開始日がこれに該当します。
もっとも、単身赴任や週末婚が先行して別居に至る場合など、必ずしもどの時点が別居開始日であるか明確ではないケースもあります。そのような事案では、上記の観点から、夫婦共有財産の形成・維持に向けた経済的協力関係終了時点に関する個別具体的な主張立証が必要となります。
基準時に存在する分与対象財産として、預金、生命保険の解約返戻金、退職金見込額、不動産、株式、自動車などが挙げられます。なお、清算の対象となる債務(住宅ローンや自動車ローンなど)についても、債務名義人が離婚後も金融機関との関係で当該債務を負担することを前提として、各人の総資産を算定する際に、積極財産から控除します。
ところで、財産分与を希望する方には、自宅や夫婦の貯蓄用口座等の特定の財産だけの移転を希望する方も多いのですが、財産分与は夫婦の個々の財産を分割する制度ではなく、また、双方の資産・負債を無視して清算的財産分与を求めることは相当ではないことから、家庭裁判所の審判・訴訟手続では実現が難しいことが予想されます(他方で、協議離婚書の作成や家事調停、裁判上の和解であれば、当事者双方が合意する前提で、特定の財産だけを移転する解決はあり得るところです。)。
財産分与の検討方法②(財産の算定)
双方の資産を開示して分与対象財産を確定させた後、その算定を行います。
不動産や自動車、株式など評価額に変動がある財産については、別居時ではなく、最新の評価額(裁判であれば口頭弁論終結時の評価額)で算定することが相当とされています。
不動産価額は不動産鑑定士による鑑定が最も正確とされていますが、鑑定には費用がかかることから、実務的には不動産業者の査定書で評価額を算定しています。夫婦双方が準備した査定書の金額が異なる場合でも、金額にそれほど差がなく、査定価格に不合理な事情がなければ、両査定書の平均値とすることもあります。
売却済みの不動産は、売却価格から手数料等(仲介手数料、抵当権抹消登記費用、印紙代等)を控除した残額で評価します。
住宅ローン付不動産は、不動産は最新の時価額で評価し、住宅ローンは別居時の債務残高で評価し、これを不動産時価額から控除することが多いところです。
株式のうち、小規模閉鎖会社の株式については、市場の相場がないため、最新の決算報告書をもとに純資産額方式で株価を算定しています。
財産分与の検討方法③(寄与度の考慮)
上記算定後、寄与度(原則として50%。いわゆる「2分の1ルール」と呼ばれています。)に応じて清算を行うことになります。
財産形成に関する寄与といっても、財産形成の経済的寄与(金銭、現物、労務等の提供)に限られず、夫婦としての協力・役割分担関係に対する評価が問題となります。この夫婦の多様な協力や異なる役割の評価自体は困難な問題であり、寄与度を2分の1から修正する事案は極めて稀なのが現状です。
最近の東京家裁の実務では、基本的には、特段の事情がない限り2分の1を原則としつつ、特段の事情を主張する当事者に2分の1を修正すべき必要性・相当性を具体的に主張立証させる運用が報告されているところです(東京家庭裁判所家事第6部「「東京家裁人訴部における離婚訴訟の審理モデル」について」18頁目、東京家庭裁判所家事第6部編著「東京家裁人訴部における離婚訴訟の審理モデル」について『東京家庭裁判所に置ける人事訴訟の審理の実情(第2版)』30頁目)。
財産分与の検討方法④算定
以上をもとにした財産分与の計算式は以下のとおりです(寄与度を原則どおり2分の1としています。)。
{請求者の純資産額(請求者名義の資産合計-請求者名義の負債合計)+相手方の純資産額(相手方名義の資産合計-相手方名義の負債合計)}÷2-請求者の純資産額
たとえば、
夫の資産:2500万円
夫の負債:1000万円
夫の純資産額:上記差額1500万円
妻の資産:500万円
妻の負債:0万円
妻の純資産額:上記差額500万円
であれば、
夫婦の純資産額は2000万円となり、これを2分の1で割ると、各自1000万円の持分となります。
そうすると、妻は夫に対し、持分1000万円から妻の純資産額500万円を差し引いた残額500万円の分与を求める計算となります。
おわりに
今回は財産分与の進め方を概説しました。次回は、各論や注意点を解説します。
財産分与の基本的な考え方・検討方法を解説しましたが、法律論には原則と例外があります。ご相談をお伺いしますと、上記解説の例外に当たる事情をお持ちの方もいらっしゃいます。その場合、弁護士のサポートにより、ご相談者様の利益に資するより良い解決案をご提案することも可能となりますので、離婚問題に直面している方は、一度、離婚問題に精通した弁護士にご相談されることをお勧めします。
特に、当事務所は宮崎県内全域の離婚事件の取扱いがあり、地域密着型の法律事務所として、県内3支店(宮崎・都城・延岡)のなかから最寄りの事務所にて、宮崎の離婚問題や家裁実務に精通した弁護士が直接ご面談してお話しを伺います。ご相談時には、夫婦それぞれの個別の事情と弁護士の専門知を掛け合わせた最適な解決方法をご提案することを努めますとともに、皆様が一日でも早く平穏な生活を取り戻すことができるよう、解決までの過程を分かりやすくご説明することを心掛けております。
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